
石田直行(以下、石田) 本日はよろしくお願いします。さっそくですが、新会社『ISDC』設立の背景についてお伺いできますか。
押野卓也氏(以下、押野) はい。まず、アイスタイルは月間1,769万人が利用する美容系総合サイト『@cosme』を運営する会社です。その統合データプラットフォームには20~30代の美容関心度の高いユーザーのクチコミから購買データまで、非常に多くのデータが集約されています。これまでアイスタイルでは、この膨大なデータを店舗へのアプローチ等に活用してきました。
山内健太郎(以下、山内) 美容業界でこれだけ横断的なデータを持っているのは稀有な存在です。それを自社のマーケティング活動に活かしていくだけでなく、もっと幅広く活用し、メーカーやリテールの関係者と共に、新たな市場開拓につなげられないかというのが最初の発想でした。
押野 しかし、いざBtoBでデータを提供していくことを構想した時に、データをそのまま提供していくだけでは、効果的な活用につながるイメージが湧きませんでした。データは、そこから見えてくるものを読み取って、理解して、仮説を組み立てながら、ディスカッションを重ねていくことではじめて、次の戦略へとつながる何かが見えてきます。
そういったコンサルティングの視点が欠かせないと考えていました。そこで、CXコンサルティングを強みとするNODEと組むことで、この構想が実現するのではないかと考えました。
石田 圧倒的なデータ量を保有するアイスタイルと、CXコンサルティングを得意とするNODE。お互いの強みを活かしたISDCの誕生は、「共創」そのものですね。
生活者に新しい価値を提供していくために、1社1社で取り組むのではなく、企業の強みを掛け合わせていくことによって、より総合的な体験価値が提供できる。そういった共創マーケティングの取り組みは、アメリカの市場が先行していますが、国内でも広がってきていると感じます。

山内 そうですね。生活者から求められることが多様化している中で、個社でできることに限界を感じる会社も増えてきました。
石田 コスメ業界に限らず、国内では近年、各社でDXの取り組みが進んできました。デジタル化を通じた「便利さ」は今の時代、当たり前のものになりつつあります。そういった動きの中、今まで以上に「心を動かす楽しさ」のような情緒的な価値が重要視されてきているのが、最近の市場の傾向かなと感じていますがいかがでしょうか。
山内 同じ認識です。便利さ・効率の良さを超えた情緒的な価値をどうやって出していけるのか。その解決策につながる仮説も、データを読み解いていくことで見えてくるので
今後はアイスタイルでお取引のあるメーカーやブランド、リテールの方々にも有用となるデータを共有していきたいと考えているのですが、各社が自社商品の分析のためだけに利用するというよりは、もう少し上位の概念として、新たな「生活者中心の市場」を創造していくための戦略・施策設計から実行・検証までを「一緒に」進めていけるような世界観を考えています。

押野 アイスタイルの保有するさまざまなデータをもとに、NODEの分析力で、生活者の新しいインサイトの掘り起しを行い、次の「兆し」を見つけ、市場関係者みんなで生活者の潜在的なニーズに応えていく。そんな未来につながる一手を担えたらと考えています。
石田 今後、メーカーやリテールなど市場関係者とも、データを用いた共創を行っていきたいとおっしゃっていましたが、ISDCではどのような価値提供をしていきたいと考えていますか?
押野 私たちの価値は、良質かつ、多くのデータを持っていることと、そこから読み解ける新たな事実や兆しを発見し、展開していけるところにあると思っています。データは、事実の集合体でしかないので、それをどう解釈するかというのは、読み手に委ねられます。
山内 そのため、仮説や検証のないままに、データだけを共有しても、受け取った方も困ってしまうのではないかと考えています。データをもとに、どんな仮説が生まれて、その確からしさはどうなのか、見えてきた新たな視点をどう解決策へと活かしていけばいいのか。その視座も含めて私たちの方でコミットしていくことが重要だと考えています。
石田 ISDCは「データの海で一緒に溺れてくれる伴走パートナー」というイメージですか?
山内 まさにそのイメージです。メーカーさんも勿論データをみていると思うのですが、我々がご一緒させてもらうことで、仮説の切り口をシャープにし、検証の質を上げていき、より良い示唆を見出せるかな、と。最適解は個社ごとに異なるので、時にデータの海に一緒に溺れながら、汗をかき、必死に何かを掴むといった感じです。
押野 そこは事業のコアですよね。広いデータの海で一緒に溺れて、何かを掴む。そこが私たちの出せる大きな価値になると思います。
石田 今後、具体的にはメーカーやブランドのどのような課題を解決していけそうでしょうか。
押野 課題は多種多様ですが、ブランド側で考えてきたことだけでは、「頭打ちになってきているのではないか」となってしまった時に、データによる新しい視点を与えることもできますし、新しいブランドを作るときに、テストマーケティング的にデータを活用してもらう場面も想定できます。アイスタイルのデータは、カスタマージャーニー上の全てのルートを網羅できているので。
山内 あとはクチコミ。これを私たちは「兆しデータ」と呼んでいます。クチコミは「何かが起こりそうな兆し」を含んでいることが多々あります。例えば、数は多くないけれど、急上昇しているワード。昨年には巻き起こっていなかったことが、今年は起きていて「何だ、これは」という気づきがある。クチコミデータを軸に見ていくことで、「未来性」みたいなものを一緒にディスカッションして見つけていくことができるというのも大きな価値だと思います。
石田 まさに市場を作っていくというか、新しいものを作っていくことが、その兆しデータを使うことでできるのですね。
山内 はい。あとは、コスメをメインで扱っていないメーカーにおいて「購買数が少ないから参考になるデータはないのではないか」という話が出たことがあります。しかし、購買まで至らなくとも「お気に入り登録」などのデータから、ユーザーが他に買っているものを見ていくと、実はハイブランドのコスメと比較検討されていたという新たな事実がわかることもあります。さまざまなデータを紐づけて見ていくことによって、ユーザー像を立体的に見える化することができるのです。

石田 データを活用して共創をしていくことをテーマとしたときに、今後の事業展開をどのように考えていらっしゃいますか。
押野 私たちの強みは、プロダクトアウトとマーケットインのタイミングで、コスメユーザーのデータをベースに事業を支援していくところにあると思っています。もちろん、メーカーやブランドの視点からすれば、@cosmeはドラッグストアや百貨店など、たくさんのチャネルがあるうちのチャネルのひとつでしかありません。市場全体の話をすべく、他のパートナー企業とも共創マーケティングという形でのデータ連携をし、より広い視野で市場全体を見渡せるようなコンサルティングサービスを展開していきたいと考えています。
また、全てをISDCが伴走することだけが良いことだとも思っていません。AIを活用した分析ツール『@cosme Copilot』というサービスもあるのですが、メーカーの中でうまくデータ活用をしていけるように、社員の方のリスキリングのサポートや、データの汎用性と提供の領域の拡大をしていくことも、今後は動いていきたいですね。
山内 我々のデータプラットフォームには、美容関心度の高いユーザーの声やアクションが集まっています。なので、まずはアイスタイルのデータを市場の縮図として実験的に活用し、そこから広げていくというのも、ひとつの方法としてお勧めしています。仮説として持っている選択肢に、データ的な裏付けがつくことで、意思決定のスピードは各段に上がります。
石田 共創することでPDCAも早く回るようになるということですね。最後に押野さん、山内さんは、どんなときにやりがいを感じていますか。
押野 やりがいを感じるのは、ユーザーの実際の動きや声をデータで見たときに、ブランド側で考えていたことは全く違う結果が出たり、発見があったりした時ですね。
山内 今までの考え方や、やり方のゲームチェンジが生まれた時に面白みを感じます。そんな風にデータに溺れることを一緒に楽しんでいけたらと思います。
石田 一緒に取り組むことで、双方が刺激を受けながら、スキルが備わっていったり、拡張されていったり、そのような形で共創型の組織や人材がどんどん強くなっていく未来につなげていけると良いですよね。
山内 はい。理想としては、一緒になるべく長くユーザーの動きを見ていくことによって、「こういうことが変化としてあったから、次の矢はこれなんじゃないか」というようなことを議論していける関係性を築けていけたらと感じています。
石田 本日は「共創マーケティングの持つ可能性」についてお話を伺いました。ありがとうございました。

アイスタイルデータコンサルティング株式会社(ISDC)
副社長 押野卓也
代理店や複数の事業会社で営業およびマーケティング業務に従事した後、デルで戦略企画を担当。スマートニュースでは、データ分析を基に営業戦略や組織戦略の策定を行う。2023年にアイスタイル株式会社に入社、2025年より現職。
アイスタイルデータコンサルティング株式会社(ISDC)
取締役 山内健太郎
広告制作会社に勤務後、実家の花屋関連のオンライン事業を立ち上げる手伝いなどを経て、NODEへ。ディレクターとして大手嗜好品メーカーの案件を担当し、サイト導線の改善などを行う。新会社設立に伴い、株式会社NODEより出向。
株式会社NODE
マーケティング&セールス統括 兼 Co-Marketing Produce事業統括 石田直行
20代で会社を興しスニーカーを扱うECの事業経営を経験。デジタル系の制作プロダクションを経て、大手コンサルティングファームへ転職。その後NODEに入社。アカウントマネージャーを経て、現職に。

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