Works - 実例

住友生命が挑んだ”保険サービス”の価値を転換する挑戦

実証実験が導いた『Vitality』の成功、そしてデジタル横断組織の結成へ(後編)

住友生命保険相互会社
新しいデジタル商品の誕生、それに伴う販売方法の変更は、それが革新的なものであればあるほど組織内変革の痛みを伴います。既存の保険商品と一線を画す、顧客の日常の健康を支援する新商品として保険業界を揺るがせた『Vitality』を生み出した際も、住友生命は何度も大きな経営判断を迫られました。
対談の後編では、引き続き、住友生命保険相互会社の岸 和良さんにお話を伺い、急進を遂げる『Vitality』の成長の裏側と、その成功をもとに大胆に実行されていった住友生命の組織改革に迫ります。

聞き手:金 均、栗原 賢(NODE)

柔軟かつ高速なPDCAこそが成功への鍵

金 均(以下、金)  顧客の生活に寄り添い、健康増進を後押しする新しい保険『Vitality』の販売に踏み切った当時、住友生命様は従来の営業職員やコールセンターの業務モデルでは、負荷が大きすぎて回らなくなるという課題を抱えていらした。そのタイミングで、NODEにお声がけをいただきました。

岸 和良氏(以下、岸) そうですね。外部のコンサルティング会社に、私たちが期待していたのは大きく2つです。デジタルによる新規顧客との接点作りと、獲得顧客の満足度の向上。そのどちらも、社内にはノウハウがなかったので、デジタルでの推進支援のノウハウを積み上げていきたいと強く感じていました。

とあるコンサルティング会社にも支援を依頼していたのですが、PDCAを回すのにとても時間がかかるのが課題でした。例えば、設定したあるペルソナに向けてメールを配信するとします。そのメールを打った結果データを分析すると、そこから新たなペルソナが見つかりそうだ、となります。じゃあその新しいペルソナに向けたメールを配信しようとすると、それはまた別の見積りになります、と。そうなると、再び決裁を回さないといけません。そのプロセスに1カ月くらいかかってしまうこともありました。

そうこうしているうちに、1カ月前と状況が変わってきました、と。ペルソナを定義してメールを流して分析して、というPDCAの流れは何も間違っていないのですが、契約と見積りと決裁とが大きなボトルネックになっていました。そこを解消してくれたのが、金さんでしたね。

 「PDCAなんて、早く回して成果を上げたほうが良いんだから、いただいた予算の中でやれるだけやれ」と、具体的な施策を行う栗原に伝えました。

栗原 賢(以下、栗原) はい。なので、夢中でコンテンツを作って配信して、を繰り返していきました。

住友生命社会議室にて、聞き手の金(左)・栗原(中央)と岸氏(右)

 栗原さん、具体的にどのようなPDCAを回していったのか、話してもらえますか。

栗原 私が参画したタイミングでは、住友生命様はデジタルマーケティングによって資料請求や問い合わせの件数を上げることを目指されていました。しかし、期待したほどの反響がない、どうしたものか、というところからのご相談でした。

ちょうど『Vitality』プログラムの一部を最大4週間、無料で体験できる「Vitality体験版」が出るところだったので、目標を体験版の登録者数に置き直し、世の中にある様々なデジタルマーケティングの手法を駆使して施策を立て、ご提案をしました。

先ほどのメールの例で言えば、もう夢中で、住友生命様と接点のあるお客様に向けて、『Vitality』の体験版に関するコンテンツを大量に作って、配信して、反応を見てまた新たなコンテンツを作って、を繰り返していきました。

 そうしたら、次はコンテンツの承認プロセスで引っ掛かったんだよね。

栗原 そうなんです。新しいメールに書き換える度、住友生命様のコンプライアンスチェックを改めて受ける必要が出てくるのですが、これが、とても時間を要するプロセスなのです。しかし、私たちはとにかく高速にPDCAを回していくと決めていたので、次から次へとコンテンツを作って、どんどんチェックに上げていきました。

 そうやっているうちに、コンプラチームの中でも、いつのまにかクイックチェックのプロセスが出来上がっていった。

栗原 おかげさまで、多くのやりとりをする中で、リスクになる部分がこちらもわかってくるようになりましたし、コンプラチームの皆様も、「これとこれだけなければ大丈夫」というチェックリストを作成くださるなどして、審査のスピードは上がっていきました。

そうして配信したメールから獲得したデータを分析して、週1のサイクルで数字をみて、3カ月単位でシナリオを切り替え、半年ごとに経営にご報告をして、をしっかり回していきました。

不確定な未来に一緒に向き合えるNODEと実証実験を繰り返す

 とにかく、やりたいことは素早いサイクルでデータ分析し、アジャイルで改善していくこと。その結果をスピーディに経営に報告したり、他部署に共有したりしようとすると、従来の契約の枠組みにはまらないことはどうしても出てきますよね。

今までのコンサルティングの仕事だと、「この業務をやります」というスコープを最初に決めて、推進して、報告して、がひとつの流れですが、現場に深く入り込んで仕事をしていると、最初には思ってもみなかったことが起きることは多々あります。

 特に新サービスの展開では、すべてが実証実験だから、むしろ「思ってもいないことを起こそう」と思ってやっているところもありますよね。新しい、面白いことが発見できると、変革が進む。なので、スコープという概念が崩壊する。

 わかります。なので、NODEから見て、シンパシーを感じて、絶対に裏切らないであろうと思われる会社様に対しては、いただいた予算とは関係なく支援していくというのが、ある種の“NODEモデル”になっています。

私は時代の変化とともに、コンサルのあり方も変わるべきだと思っています。NODEからすると、クライアント様とは「カンパニー」であり「仲間」という意識なんです。何が生まれるかよくわからない、そこに対してともに一生懸命になれる関係性を築いていけると、今回の『Vitality』の事例のような化学反応が起きてくるのだと思っています。

目の前にはパーパスと新しい商品のコンセプトだけがあって、どうやって進めたらいいのかよくわからないけれど、とりあえず「顧客価値」を軸に考えてやってみれば、何か出てくるかもしれない。そんな進め方をさせてもらえるのも、お受けできるのも、やはりお互いの信頼関係があってこそだと思います。

 不確定な未来に一緒に向き合えるパートナーになってもらえるのはとても心強いです。「理念」と「自信」と「技能」を持つ相手だからこそ、信頼して託すことができる。それは、話してみればすぐわかるので。

そして、本社側にもそれを理解して、受け入れられる人間が必要ですね。社内でも時々、コンサルティング会社に対して「作業リストを全部出せ」とか言う社員がいたりするので、「違うよ」と。「作業じゃなくて、価値にお金を払うんだよ」と、伝えています。

 いい言葉ですね。価値を出して、その価値にお金をいただいている。その通りだと思います。もっというと、世の中に対して価値を創出するための伴走をさせていただいて、それに対して報酬をいただいている。いずれにしろ、背筋が伸びるお言葉です。

NODEは「我々の野望を実現するための“知恵袋”」

 『Vitality』の支援のほか、事務効率化やZ世代調査など、住友生命様では数えきれないほどのプロジェクトをご一緒させていただきました。岸さんもしくは、住友生命様の中で、今、NODEはどのような位置づけになっていますか?

 一言でいうと「我々の野望を実現するための“知恵袋”」ですかね。重宝しています。

 ありがとうございます。先ほど、岸さんから、社内にノウハウを残すためにひとつのパートナーに多部門を並行させるというお話がありましたが、ありがたいことに現在は多部門において、DX担当として入らせていただいております。

そうすると、ある部門で見つけた顧客のインサイトを他の部門に生かしていくということが、NODEを介して自然と行うことができるようになります。今、気づいたのですがたぶん、NODEは社内のノウハウ循環のための「バーチャル組織」の役割を果たすことができていたのかな、と。

 部門はそれぞれのミッションを達成するために動いているので、ある組織で生成されたデータの宝を3割は使うけれど7割はそこでは使わない、でも他の組織でその7割を使えると本当はすごくいい、ということが実際にあります。横断で見ている人にはわかるんですが、部門にいるとその宝の存在に気づけない。各部門に情報が断片的に集まってきているこのタイミングで、データホームのような組織を作ることで「宝」を浮かび上がらせようと。そこで、この4月より全社横断のデジタル&データ本部という新しい組織が生まれました。

 これまでデジタルオフィサーとして『Vitality』のシステム部門を牽引されてきた岸さんが、事務局長に就任されたのですよね。

 はい。なぜ本部長ではないのかというと、社長が本部長でして。そこにはトップがデジタル&データを主導するという強いメッセージが込められているんです。全社の推進役が社長で、私が技術やビジネス視点の施策を考え、社内を横串で刺していく立場になります。

 ひとつの商品の成功が、全社の舵取りをしていくまでに育ったのですね。

お客さまからいただいたデータは、価値に変えてお客さまに返していく

 住友生命様の今後の展望についてお聞かせください。

 経営目標は、はっきりしています。2030年までに『Vitality』のユーザー数を500万人に、住友生命グループのサービスをなんらか活用くださる人を2000万人に、というものです。それを、デジタルを活用してパワフルに推進していくことです。

 売上目標ではなく、ユーザー数を目標にしたのは、今回が初めてですか?

 そうです。これまで、中期経営計画の目標は保険料だったり収入だったりしていました。しかし、今年から3年間は、ターゲット人数だけを決めました。もちろん、裏側には別の指標もありますが、まずは数を増やすことに注力しよう、と。方法については、マンパワーだけでは増えなくて、飛び道具を使わないと難しいです。飛び道具とはつまり、デジタルとデータです。

『Vitality』のデモンストレーションを行う岸氏

ユーザー数を目標にしたことは、「健康増進活動を行う人を増やそう」というメッセージです。そして、住友生命のサービスのリーチ目標2000万人でいうと、「『少額短期保険(ミニ保険)』も含めた小さな接点も大事にしていきたい」、そういうことです。

 ミニ保険は「熱中症保険」とか、「受験保険」とか、生活の中に潜む不安な気持ちに対してお守りになるような、そんな保険ですよね?

 一人で不安を抱えているときに支えになるようなもの、気持ちに寄り添うようなものを保険化できないかという取り組みです。たとえば、受験勉強で努力していたけれども落ちてしまったり、出産で子どもに先天性障がいが見つかったりした場合にお金が受け取れるとか、そういった日常の不安が伴うシーンに互助の仕組みを盛り込んでいく発想です。

 最後にお尋ねします。これからさらにデータ経営に舵を切って行こうとしている住友生命様ですが、岸さんにとって「データ」とはどのようなものですか?

 データというのは、お客さんに価値を提供したときのライフログですよね。お客さんのための商品を作って、それを使っていただいたときに結果として集まるもので、それをまたお客さんにどう価値として返していくかを考えていくための材料です。

だから、「データって儲かるよね」といった考えが私は大嫌いです。データは、お客さんからの信頼、評価の証で、データ単独では価値がない。お客さんのことをより深く知って、その人たちのために商品を改良していって初めて価値が生まれます。それをサイクルとして回していくところに、世の中の発展があると思っています。

—了—

岸 和良
住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー/デジタル共創オフィサー/デジタル&データ本部 事務局長
2018年日経優秀製品・サービス賞で最優秀賞にも輝いた、革命的な健康増進型保険商品『Vitality』を日本で展開。現在はデジタル共創オフィサーとして、デジタル戦略の立案・執行、パートナー企業や自治体などとの共創活動、社内外のDX人材の育成活動などを行う。著書に『DX人材の育て方』(翔泳社)、『実践リスキリング』(日経BP社)などがある。

取材・文/木崎ミドリ 撮影/保田圭介 編集/丸山央里絵
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