Works - 実例

JTが向き合う市場の変化と再創造

マーケティング・インテリジェンスチームを創生し、変革の架け橋へ

日本たばこ産業株式会社
2020年4月、今からおよそ1年前、日本たばこ産業株式会社(以下、JT社)のたばこ事業本部・マーケティンググループに、 “インテリジェンスチーム”という新たなマーケティング組織が立ち上がった。これまでのマーケティングチームではやってこなかった、ユーザ仮説に基づくビジネスプロトタイピング検証を担う新チームだ。

チーム構想段階でNODEは、リーダーとして組織を率いるマーケティング企画部 次長の柳野 良氏と出会い、新組織へのアドバイザリーをスタート。1年以上の変遷をともに歩んできた。

顧客インサイト調査や外部プロフェッショナルとの連携を強化し、たばこ事業の変革で、常に新しいユーザ仮説を与え続ける中核として機能しつつあるインテリジェンスチーム。
その成り立ちや、立ち上がりの障壁、そして今後の取り組みについて柳野氏に訊いた。
JT社会議室にて、聞き手の金 均(写真左)と柳野氏(写真右)

加熱式たばこで市場は一変した

金 均(以下、金) まずは前提からお尋ねします。マーケティング・インテリジェンスチームはJT社でなぜ立ち上がったのでしょうか。

柳野 良氏(以下、柳野) その答えはやはり、「加熱式たばこ」の登場、それによる市場の変化です。

これまでの「紙巻たばこ」は、計画経済だったんです。あらかじめ定められた配達日、過去数十年に及ぶ販売実績を基に、日ごと、月ごとにいくら売れるか、年度利益まで計画できました。

 紙巻たばこは、ブランドも、1日に吸う本数もほぼ決まっている。「このコンビニで、この曜日に買う」ところまで、消費者行動はほぼルーティンだから、サプライチェーンもほぼ決まっていた。

柳野 その通りです。ゆえにいかに効率的にたばこをつくり、ロジスティックを行うかが利益の一番の源泉でした。あとは強烈なブランドさえあればやっていけた。ところが加熱式デバイスを扱うようになって、それが成り立たなくなってきた。

 勝負ポイントが変わった。

柳野 そう、変わった。けれども、僕らはその顧客変化を捉えきれていなかった。
ブランドロイヤルティが高くてスイッチングのないたばこ商材に加熱式が登場して、紙巻から加熱式にスイッチしたり、使い分けをしたりと、お客様側の変化が一気に起きた。

もともと紙巻たばこの新商品は、市場投入後に1%も売れればメガヒットの商材です。けれど加熱式たばこは、この5年で市場の20%台後半を占めつつある。桁違いのスイッチング量です。

 そして、加熱式たばこには先行する競合がいる。その現実を受け止め、改めてお客様の行動を調べにいく必要があった。

柳野 そうです。しかし、これまで当社はファクトベースの調査が主だったので、仮説に基づく調査に不慣れでした。
そこでお客様を想像しながら、一歩踏み込んだ調査を進めるため、マーケティング・インテリジェンスチームは生まれました。

顧客を捉えるのに求められた進化

 柳野さんは、ずっとJTでマーケティングをされていたんですよね。

柳野 はい。新卒でJTに入社後、数年間営業等いくつかの部署を経験したのちに、調査分析畑で10年ほどやってきました。入社14年目の今年からマーケティング・インテリジェンスチームのリーダーをしています。

 これまでもあったマーケティングチームと新チームとの違いはどこにあるのでしょうか。

柳野 従来のマーケティングチームは、トラディショナルなお客様調査が主です。例えば、喫煙者率を調査から推計したり、新商品の市場受容性を定量調査したりして、市場規模の見立てや商品企画者たちのサポートをするような仕事です。

一方、新チームでは定性調査をより肉厚にしています。実際にお客様の喫煙シーンをビデオで撮影して行動観察するなど、既成観念を取り払った新しいマーケティング手法を取り入れたいと考えています。

 なるほど。新しいチームは、定性調査により顧客インサイトを掴み、市場予測をして課題提起をしていく組織なんですね。

柳野 はい。そういった課題提起できるマーケティングチーム立ち上げるにあたり、外部の知見を積極的に取り入れようと、何社かコンサルファームにお声掛けしました。結果、NODEさんが一番実践的なメソッドを提供くださると感じた。

例えば僕たちは社内での調査パネル作成を志向していたものの、当時は何から手を付けていいのかが分からなかった。そこに「最初は30人でもいい、それを模擬市場化していって……」というように、非常にクリアな展望を示してくださいました。

おかげで今は最大200人ほどの社内パネルができ、クイックな調査が可能になりました。
他にも、喫煙者向けのプラットフォーム「CLUB JT」の会員様とオンラインで座談会をして、デジタルコンテンツに対する評価などを気軽に聞ける機会も生まれました。

 それは素晴らしい動きですね。

柳野 やろうと思えば、これまでもできたんです。けれど、教えていただくまでその重要性に僕らは目がいっていなかった。

 立ち上げ時は各部門に案件の営業をして仕事を獲得しようと話していましたが、蓋を開ければ、捌ききれないほどの案件が向こうからやってきました。

柳野 はい、もうこの半年間はパンク寸前でした。

 具体的には、どんなプロジェクト依頼があるのですか。

柳野 企画段階の商品のパッケージ調査など、アドホックな調査中心です。クイックにインタビューをして、お客様の反応を直接見て評価する仕組みを加えました。

 定量調査の軸が、よりシャープになった。

柳野 はい、かつ観点が増えてワイドになりました。

NODEとの協働でプロジェクト型に適応

 チームとしての次のステップはどうお考えですか。

柳野 チームの構築と強化ですね。特にメンバー育成は試行錯誤中です。マーケティング領域での経験が浅い若手中心。インタビューはどんどん経験して頼もしいのですが、一方でマーケティングのスキル面の成長サポートなどの課題も感じています。

 これまでの働き方と、今のチームでの働き方はかなり異なるのですか。

柳野 かなり違いますね。これまではルーティンのデータ解析やレポート報告があった。現チームはプロジェクトベースなので、自分がやり抜かなければアウトプットがありません。みんなモヤモヤを抱えていると思います。
でもそれを救うのはやはり成果物しかない。難しさを感じています。

 従来のオペレーション型からプロジェクト型へ。働き方の変革が求められる中、メンバーに向けた導入研修を行いました。

柳野 はい。「競合攻略の打ち手を考える」というお題で、4週間のカリキュラムで。イシューを言語化したり、ターゲットに実際に話を聞いたり、一連の体験をメンバーに提供できたことで、大変良い滑り出しができたと思っています。

 チームでの事前研修によってメンバーそれぞれの特徴がお互いに見えて、実際のプロジェクトに、よりフレキシブルにアサインしていけるようになるのもメリットだと思っています。

柳野 まさにそうでした。導入研修もそうですし、ワークショップ運営やリサーチの企画からオペレーションまで、NODEさんには完全にワンチームで関わっていただきとても助かっています。

 アドバイザリーというよりは、例えるなら、他部門のプロダクト開発チームと一体となって、新ビジネスのプロトタイピング・プロジェクトをやっている感じですよね。

柳野 まさに、そうですね。NODEさんは実際に共創をしてくれる。現場で仕事ぶりを見せてくれるので、メンバーたちにとってのいい見本にもなっています。

外部連携でアイデアを養い、変革の架け橋へ

 TOYOTAのコンセプトカーや家族型ロボット『LOVOT』などのプロダクトデザインを手がける、クリエイティブコミュニケーターの根津孝太さんをお招きしてのブレストも行いました。

柳野 外部刺激はアイデーション(チームから斬新なクリエイティビティを引き出すプロセス)で確実に必要ですからね。これまで、少なくとも私含めた周囲の人間には、たばこ商材は特殊だからと他業界をあまり意識してこなかった側面がありましたが、今後のプロダクトになるとそれではもう立ち行かない。

 工夫のしがい、想像力の発揮のしがいがありますね。

柳野 JTの社員は基本、根が真面目なんですよね(笑)。何事もロジックの積み上げで理由を考えたがる。けれど根津さんは、「たばこは時間を操りますね」、「指で長いものを挟む所作が良い」など、センスからの話をしてくださいました。自分たちだけでは思いつかなかったと思います。

 根津さんのメッセージの根幹は、たばこが創ってきた文化への指摘でした。でも、たばこが創ってきた文化は、日本ではJTさんが創ってきた文化です。

柳野 JTには、今まで紙巻たばこで培ってきたアセットがある。

 そう、その日本市場に海外から競合がデジタルデバイスで新しい戦いを挑んできた。戦い方を変えられた状況への対応に苦心していたけれど、いや、そうじゃないと。

柳野 無理に合わせる必要はない。最近はトップ経営層含めて、我々は我々のブランディングをきちんとしようという方向に考えが変わりつつあります。

 マーケティング・インテリジェンスチームの登場によって、お客様のインサイトを突き詰めることが可能になった。結果、デジタルデバイスのスペック開発などの次元ではなく、お客様に向き合って真の体験価値を提供することに、次世代の可能性を発見した。

実はこのコアコンピタンスの発見が、インテリジェンスチームによるJT全社への最大の貢献かもしれないと感じています。

柳野 そうかもしれません。

 全社変革が動き出す中心に、マーケティング・インテリジェンスチームがある。

柳野 最近、あらゆる部門との架け橋になりつつあります。例えば、今までマーケティングとセールスはつかず離れずの関係でしたが、僕らがブリッジになることで、より強くつながってきたと感じています。

常に挑戦していくしかない

 今後、リーダーとしてチームで挑戦していきたいことはなんでしょうか。

柳野 次世代への取り組み、具体的なプロジェクトの繰り返しによって、チーム力を今以上に身に着けていくことですね。プロジェクトの実践を通してチーム全員で成長していきたいです。

 では最後に、同じく変革に取り組む方へ、柳野さんからのエールをお願いします。

柳野 たばこは嗜好品の中で最も功罪ある商材と言われていて、今まで僕は一番身動きが取りにくい商材なのだと勝手に考えていました。

けれど、飲料やどの商材でもきっと一緒なんですよね。会社に新しい文化を取り入れ、課題を抽出して、真にお客様目線の商品開発を提案することは、どの業界の、どんな商材も難しい。

僕たちもまだこれからですが、実際のお客様の声を諦めずに聞き続けることが打開策なんだと思っています。

 どんどん新しいメソッドも取り入れて、お客様の声を信じて、前に進むしかない。

柳野 もう、それしかないですよね。もともと、どの企業も価値を持っています。でも過去からなかなか抜け出せない。

 抜け出すためには、お客様と対峙していいものをつくる。最後はそこに帰着しますね。

柳野 格好いいことを紙に書いても、そう簡単に実現できないですからね。常にチャレンジしていくしかないんだと思っています。

柳野 良
日本たばこ産業株式会社
たばこ事業本部 マーケティンググループ マーケティング企画部 次長

2007年日本たばこ産業(JT)に新卒入社、熊本支店に配属。本社マーケティングチームで調査分析、JTインターナショナルでStrategic Insightsを担当。2020年4月より現職。愛犬家。

取材・文・編集/丸山央里絵(Funday) 写真/保田敬介 デザイン/吉川 渉
  • マーケティング
  • デジタルトランスフォーメーション(DX)
  • 変革組織プランニング
  • 戦略構想
  • 変革リーダーシップ
  • ビジネスプロトタイピング

|Works - 実例

“トップガン”で仕掛ける、現場と経営をつなぐDX
サントリーコミュニケーションズ株式会社

プロダクトからサービスへ。“実証実験”に託す未来
日本たばこ産業株式会社

“源流”を突き詰め、小売りをアップデートする
株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス

メニュー単体からトータル支援まで、
幅広く対応させていただきます。
まずはご相談ください。
お問い合わせ