Works - 実例

JTは、たばこのある生活をデジタルで変える

プロダクトからサービスへ。
“実証実験”に託す未来

日本たばこ産業株式会社
プロダクトとしてのたばこから、たばこのある生活をより良くするサービスへ。今回対談をお願いしたのは、JTの中長期のデジタルマーケティングをはじめ、たばこ事業へのデジタル活用の推進役を担う、たばこ事業本部事業企画室の嶋田 有里菜さん(写真左)。

NODEは2020年2月に、嶋田さん率いる、新しいデジタルサービスの中長期開発プロジェクトに参画。プロトタイピングを用いた実証実験の設計から、実行までを伴走しています。新しいアプローチにより、見えてきたものとは。部署を越え、周囲を巻き込みながら変革を進めてきたこれまでと、これからのお話を伺います。

聞き手:NODE 合田 未怜(写真右)

中長期に向き合って、
初めて見えてきた課題

合田 未怜(以下、合田) まずは嶋田さんがJTに入社されてからこれまで、どんなことに取り組まれてきたのか教えていただけますか。

嶋田 有里菜氏(以下、嶋田) 入社以来、約20年ずっとたばこ事業をやっています。
入社してすぐ5年間は、たばこ工場の現場で勉強をしました。もともと消費財メーカーに入りたくて、さらに嗜好品が好きだったので、たばこに関われて非常にハッピーなんです。それで、もうちょっと上流工程も知りたいなと思った時に、ちょうど社内公募があったので、応募してマーケティング部門に異動しました。

マーケティング部門では、新しいたばこのマーケティングを経験する中でプルームブランドを担当し、当時たばこでは初のオンラインショップの立ち上げに携わりました。
今は、マーケティング部門から事業企画室に異動し、デジタル活用推進に携わっています。マーケティングに限らず、社内業務も含めデジタル活用を推進していくのがチームの役割になります。

合田 現在のメインミッションはどういった内容なんでしょうか。

嶋田 デジタルマーケティングの中長期課題に手を付けることですね。
デジタルマーケティングを推進する部はマーケティング部門にあるんですけど、そこはお客様に一番いいものをお届けする「今」を見ているので、うちのチームでは中長期の課題を抽出し、実際にその課題にアプローチしながら解決の道筋を考えるのが大きなミッションです。

合田 NODEが今ご一緒しているのは、その中長期の観点での新しいサービスの実証実験ですよね。ただ、まず一般的には、そこで「実証実験をやろう」という発想になかなか至りにくいと思うんですが。

嶋田 そうですか。やっていないのはうちぐらいかなって、実はちょっと焦っていたんですが。

合田 なるほど。では、嶋田さんは危機感をお持ちだった。

嶋田 そう、そこまでやってなかったなって。自分はマーケティングやブランディングのど真ん中にいたはずなのに、コンセプト作りは一生懸命にやっていたけど、意外と実証実験はやっていなかった。

膨大なリソースがかかるので、本開発の社内承認を得るのはすごく慎重になる。でも、その手前でプロトタイプを作って、使ってみて、コンセプト自体をブラッシュアップすることは、これまでやってこなかった。
マーケティング部門から出てみて、改めて、なんでやってこなかったんだろう?って思ったんです。

実証実験こそ、
中長期課題に最適なアプローチ

合田 きっかけがあったんでしょうか。

嶋田 調査だけやっていても、全然クリアにならなかったんです。

中長期の課題って、テクノロジーがこう進化して、市場環境がこう変わる、だからお客様のニーズや行動がこう変わる、だからうちは今から何を準備すべきなのか、といった形で、不明瞭なことが前提でだんだんと解像度を上げていく必要がありますよね。
今までの新商品マーケティングでは、今見えているお客様の声を重視していましたが、同じアプローチが全く使えない。

それで、本を読んだり、合田さんに誘っていただいたカンファレンスに行ったりして、「あ、そうか」と気が付いたんです。「スモールでプロトタイプを作って、お客様もしくは社員で使ってみて、ああだこうだ言いながら、少しずつ手を付けていけばいいじゃん!」と。

合田 なるほど。今ある課題にミートしにいくのならある程度は線形で進められるけれど、今はまだない課題を見つけにいくから、アプローチ方法が変わったんですね。

嶋田 そう、中長期は今までのアプローチだとなかなか進まないですね。

うちはメーカーなので、お客様にもっと美味しいたばこを、もっと使いやすい加熱式たばこを、とプロダクト面はもちろん全力でやっています。
けれど、デジタルトランスフォーメーション(DX)を考えると、やっぱり「プロダクトからサービスへ」を考えなきゃいけない。なので、 “たばこがある生活”をより良い状態にするためには何が必要なのかを、サービス観点で実証実験していくことにしたんです。
そこで、NODEさんにお声がけしました。

合田 私が関わったタイミングは、サービスアイデアのブレストは結構されていて、その中からいざ、どれをどう組み合わせて実証実験するのかを企画されていた時でした。

嶋田 そう、うちは違う部署の人間も交えて真剣にワークショップをするなど、アイデアを企画にするのは結構、得意なんです。

でもその先は、そのアイデアをお客様調査で確認して、精緻化して、が一つのサイクルで、本当に芽がありそうなものは、そこから一気に実開発、実装に入っていた。でもそうすると、そのあと製造や品質の安定性や様々な規制対応などの課題が見えてきて、どんどん“とんがり”が落とされていったり、途中でのスペック変更が難しかったり、時間もやはりかかる。
なので、そのあたりの制約も可能な限りふまえて、開発前に検証できるのもいいのかと。

プロトタイピングで
周囲を巻き込んでいく

合田 実証実験をいざ始めてみて、思い描いていた通りでしたか。

嶋田 いえ、いろいろありました。
まず、いきなりお客様に使ってもらえるレベルでサービスのプロトタイピングをするとなると、それでもお金や時間がかかって難しいものがあったんです。

そこで、まずは社員でテストすると割り切ることにした。よく考えてみたら、たばこにまつわるデジタルサービスは、社員にとっても新しいんですよね。いや、むしろ、お客様ではなく社員でテストする方がいきなりお客様にテストしてもらうより、もっといいんじゃないか、とも思って。

合田 もっといい、というのは?

嶋田 開発の裏側も知っているから、今まではテスト対象としてタブーだった開発者に、今回はまずテストしてもらうことになったんですけども、開発の人に使ってもらうと、すぐ開発に生かせるじゃないですか。
自分が「もっとこうしたらいいんでは?」と思ったら、そういうものがすぐ作れる。え、むしろいいじゃん!って(笑)。

いずれそういうのが普通に行われるところまでいけたらいいなって、今は思っているんです。どんどん作って、どんどん社員で使ってみて、どんどんプロトタイプを作り変えちゃう。そういう開発スタイルができるといいなって。そうしたら、本当に新しいものがどんどん生まれてくるんじゃないかなって。

合田 素敵ですね。
実証実験は当たり前じゃなかったJTの中で、嶋田さんがまず先陣を切って、いろんな部署をまたいで協力を仰いだ結果、なによりそのためのいろんな知見や情報が集まってきて、企画の精度が上がった。そこも、実証実験のメリットなのかなと思いました。

嶋田 そうですね。プロトタイプがあるのもすごくいいなと思いました。
紙ベースで一生懸命プレゼン資料を説明していても、やはりリアリティがないので、意図が伝わりづらいんですよ。でも、プロトタイプがあると、直接は仕事上で関係しなさそうな人にも、「まずこのプロトタイプ触ってみてもらっていいですか」って気軽にやり取りができる。

本当はみんなやりたいんだけど、どうやって一歩踏み出したらいいかよく分からない、みたいなことは、意外と会社のあちこちに散らばっているのかなって思う。

だからもう、DIYの時代だなって。自分たちでいろんなものをスモールでクイックにつくって、自分たちで使って、自分たちでブラッシュアップしていけばいい、そういうのを会社全体で広げていけるといいですよね。
一生懸命にパワーポイント資料で説明するよりも、それぞれのプロトタイプを交換して使ってみて、「あ、これとこれ一緒につなげられるね」って。

合田 そうですよね。そんな世界がいいと思います、私も。

嶋田 本当はみんな、ものをつくりたいんですよね。JTには良いものを作りたいという想いを強く持っている人が多い。そのパワーを集約したらきっともっといいものができると思うんです。

個性は、作って使いながら磨き込む

合田 デジタルのサービスに技術面のお話はどうしても切って切り離せないと思うのですが、そこはいかがでしたか。

嶋田 確かに。でもそこもやっぱり、ものをつくるのが速いですよね。

さっき、合田さんに仕上げてもらった資料を持って、また新しいサービスアイデアの社内提案をしてきたんです。でも、言われたのは、「どこかで見たことあるものをつなぎ合わせている感じだね」。
実際そうなんですよ。どこかにあるものをいかに自社のサービスに取り込んで、いかに自分たちのお客様が喜べるものにするかが今は重要。
突然、革新的な何かは出てこないし、資料上でどんなにブラッシュアップしていても変わらないから。

例えば私、フィットネスアプリで、今日は何時間しか寝てないなとか、何歩しか歩いてないな、とか結構チェックするんですけど、「もうちょっとこの機能がこうだったらいいのにな」って思うんですよ、世の中にこんなに普及しているアプリに対しても色々使いにくい部分がある。でもそれに対しては何もできない。それが、自分たちでつくったプロトタイプだったら、どんどん良くしていけるじゃないですか。
だから今日も言ったんです、「まず作ってみませんか」って。

合田 個性はプロトタイピングをやっていくうちに出てくるもの、ってことですね。

嶋田 そうだと思います。最初は例え世の中によくあるサービスの寄せ集めだったとしても、「これは、たばこにもあったほうがいいんじゃないか」と思ったら作ってみる。
私を含めて、自分たちがたばこLoverなので、自分たちが使って、何がお客様にとってうれしいかを考えて、磨いていくのが一番いいかなって思っています。

合田 当時、NODEにご相談いただいた理由は何だったんでしょうか。

嶋田 同じ手法で他社さんのサポートをされている実績を教えていただいたからです。

合田 2020年1月にあった、カスタマーサクセス・カンファレンス「Success4」のことですね。そのセッションでうちの代表が話した、住友生命保険様の既契約者様向けのサービス事例。

嶋田 そう、その事例がすごいなと思って。それで、いわゆるサポーター兼アドバイザーになってほしいと思ったんです。
当時の社内は、実証実験そのものに懐疑的な意見も多くて。今はそんなことないですが、1年前は、「社員でテストして意味あるの?」とか、「そんなスモールにやって意味あるの?」と。

合田 ありがとうございます。では、今は機運が生まれてきた感じなんですね。

嶋田 そうですね、仲間が見つかってきた感じですね。
もちろん、実証実験のアプローチ自体が会社でいいねと思ってもらえるのは、本当にそれでビジネス的にインパクトのある成果が出せた時だとは思っていますが。

大きな変革は、小さな一歩から

合田 でも、いいですね。そうやってアイデアが集まってきて、もしかしたら、革新的な何かがそこから生まれるかもしれない。

嶋田 そうですよね。
そこはやっぱり、NODEさんが、「今はそういう時代だよ」と新しいアプローチ方法を教えてくれたのが大きかったと思います。

実証実験という手法はもちろん、お客様でテストできなければ社員でテストしてもいいんだとか、プロトタイプが100人分用意できなかったら5人分でもいいだとか。そういうアプローチを教えてくれたのはとても大きかった。

だけど、一番は、やっぱり実際に一緒に動いてやってくれていることかな。
いかにやるか、なんですよね。うちみたいな規模の大きな会社で、社員も部署も多く、それぞれで活動しているところでは、いかに一歩目、そして二歩目を踏み出すかが肝心なんです。

なので、社外の味方として、一緒に悩みながら、「こうきたか」、「じゃあ今度は社内でこう提案しよう」だとか、並走してくれているのは本当に大きいですね。

合田 通信簿をいただけたようで、うれしいです。
では最後に、嶋田さんと同じように変革に取り組んでらっしゃる方にエールをお願いできますでしょうか。

嶋田 なんだろう…。気持ちを強く持つことですかね。昨日もデジタル人財に必要な要件をみんなで話していたんですけど、結局、マインドが一番重要じゃないかという話になって。
それというのも、デジタルは特に、マネジメントと現場のギャップが大きく開きがちだと思うんです。

合田 わかります。だからこそ、実証実験を通じて、いろんな人たちの意思疎通を図りながら進めていくことが大事になりますよね。最初は小さな試行錯誤ですけど、どんどんそれを大きくしていって、どんどん全体をつなげていく。

嶋田 そう。だからこそ、まずちゃんとサービスインできるものをつくりたいと思っています。
でもサービスって、お客様に実際に使われて、喜んでいただいてなんぼじゃないですか。だから、今回の実証実験のアプローチを通じて、お客様に本当に使ってもらえるものをサービスインするのが、私の今の野望ですね。

嶋田 有里菜
日本たばこ産業株式会社
たばこ事業本部 事業企画室 次長

1999年に日本たばこ産業(JT)に入社し、北関東工場に配属。その後、本社ブランドチーム、スイス・ジュネーブのJTインターナショナルなどを経て、2018年1月より現職。加熱式たばこ「プルーム・テック」のマーケティングを担当。現在はたばこ事業へのデジタル活用の推進役に。たばこやお酒などの嗜好品をこよなく愛する。

取材・文・編集/丸山央里絵(Funday) 写真/雨森希紀(Maran.Don) デザイン/吉川 渉
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  • メーカーとの共創マネジメント

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