歳を重ねると、人とのつながりが増えていく。そのつながりをしがらみにしてしまうのか、縁にできていくのかは本人の選択次第なのかもしれない。堀込泰三はニュートラルな選択を大事にして、人との出会いに縁を感じてきた。その縁が重なって、今では兼業主夫をしつつ、フリーランスとして翻訳業をしながら、一般社団法人リテールAI研究会の理事も務めている。
複業が生む、生活者目線の強み
Q どんな仕事をしていますか?
2018年から、一般社団法人リテールAI研究会の理事をしています。リテール業界にAIを導入するための勉強会や実証実験を主催する研究会です。コンビニやドラッグストア、食品や日用品のメーカーなど、約250社の会員がいて、月に1度の勉強会で小売業にAIを導入するための知識を学んだり、分科会を通じて実証実験に臨んだりしています。
実証実験では、「棚割や陳列棚の最適化」など会員さんの興味に合わせたテーマに取り組んでいて、常時10件ぐらいの実験が並行しています。僕自身は事務局として勉強会の運営や、会員とAI技術を持つ企業の仲介などをしています。
Q なぜNODEとつながるようになったんでしょう?
代表の金くんとは大学の同期生なんです。本当に偶然なのですが、昨年、同期会が開かれた際にFacebookグループができて、欠席だった金くんもそのグループに入ったことがきっかけで再びつながりました。私のプロフィールを見て、リテールAI研究会のことを知り、NODEも同じ取り組みをしていると連絡をくれたんです。それで1度、食事をすることになり、NODEがコンビニと飲料メーカーの実証実験の場をつくっていることを教えてもらって、一緒にやっていけそうだと思って。
今では金くんもリテールAI研究会の役職を得て、僕もNODEで役職をもらい、相互に所属し合いながらリテールとAIの場づくりで協力しはじめています。
それと、NODEが目指している、一つの会社に勤めるのではなく、一人が複数の仕事をしながら、つながり合って働いていくコミュニティのあり方にも共感したので、関わるようになりました。振り返ってみると、僕もそういう人生を過ごしてきたと思うからです。
Q 堀込さん自身も複業なんですね。
そうです。リテールAI研究会の事務局だけでなく、フリーランスで翻訳業もしていますし、主夫業をして13年にもなりますね。
Q 主夫業ですか?
はい、いわゆるママ友のランチ会にも行っていましたよ。10年ほど自宅での翻訳業と主夫業をメインで過ごしてから、3年前に再就職をしてリテールAI研究会に参加した時には、あらためて「世の中って男性中心で進んでいるんだ」と思いました。リテールをテーマにしているけれど、勉強会に出席するたくさんの参加者のうち、女性は3、4人ほどしかいない。一方で、僕は買う人の立場をよく知っていて、今でもスーパーマーケットに通っていますから、主夫業の経験が今の仕事にも生きていると思っています。本当にたまたまのことなんですが。
本当にいいことをニュートラルに選択
Q 13年前、主夫になったきっかけを教えてください。
上の子が生まれる時、妻は大学で研究者をしていました。研究者は1年契約で、育児休暇を取ると戻る席がなくなってしまいがちな仕事だったんですね。研究者を続けたいという妻の話を聞いて、当時は女性が退職して子育てに専念するのが一般的だったので、どうしようかと思い、自分の勤務先だった自動車メーカーの人事規定を調べたんです。そうしたら、「男女ともに2年間の育児休暇を取ることができる」と書かれていたので、申請しました。
そうしたら、上司に「えっ?」とビックリされたんですね。「奥さんに任せたらいいじゃないか」と。けれど、「妻が研究者を辞めたくないと言っていて、僕の方は休むことができるんだから、最善な方法は僕が育児休暇を取ることなんです」と話しました。3回ぐらい話した末に、2年間の育児休暇を認めてもらえたんです。
Q 育児休暇を取ってからは、どう過ごしましたか?
妻がアメリカに転勤することになり、家族で移りました。そこで2年間、専業主夫をしているうちに、あっという間に育児休暇の期間が終わってしまいました。復職のためには日本に帰らなければならない。でも、妻の任期はまだ残っていたんですね。家族が離れ離れになるくらいならそのまま辞めてアメリカに残りたいと主張したんですが、妻から「せっかく機会を与えてもらったのに、辞めてしまったら後で同じように育児休暇を取得したい人が申請しにくくなってしまう」と諭されて、それはいけないと単身日本に戻りました。でも、家族と離れて暮らすことは想像以上に寂しくて、4ヶ月後に退職してアメリカに戻りました。1年経って日本に戻ってからは、フリーランスの翻訳業と主夫業を兼業していました。
Q 専業から兼業に変えた理由は何ですか?
妻と収入を合わせたほうが暮らしやすかったからです。幸いなことに、翻訳業が順調に進んで、毎日1記事の翻訳を依頼されるようになりました。フリーランスは時間に自由がきくので、PTAとか、子ども関係の集まりにも顔を出せるのがよかったです。
Q 10年以上前に兼業主夫をはじめることはとても珍しかったと思います。常識とされていることにとらわれないで、その時々にあった選択をしてきたんですね。
僕は「ニュートラル」って言葉が好きで、何事もニュートラルに考えていきたいと思っています。一般常識や世間体、固定観念のようなこととは関係なく、自然体で考えた時に何が本当にいいことなのかを考えると、一番いい答えが出ると思うんです。これまでの人生でもそうしてきましたし、仕事でもそうしていきたいと思っています。だから今も、一般的に言う「就職をした」という気持ちとは違うんです。
フリーランスを10年してきて、毎日ビーチサンダルを履いて過ごす暮らしから、世の中がこんな風に動いているんだということを目の当たりにする環境に移って、今はそれが楽しいと感じます。最近ではビデオ会議をすることも少なくないので、自宅でビデオ会議をすることは子どもにとっても普通なことになっていて、無理なく複業できていますよ。
誰かが使って喜ぶものを
Q 複業で、いくつもの顔を持つんじゃなくて、一人の堀込さんがいろんな場所に溶け込んでいるんですね。
このままの自分で働いていい場所を選んできたんだと思います。そして、そんな行く先々でいろんな人とつながっていくから面白いです。NODEがつくろうとしている、つながるコミュニティも、きっと、そういう縁を生んでいく場所になるんだと思っています。
人とのつながりは大切だけど、意識的に人脈づくりをするつもりはありません。それよりも、自然な成り行きで出会った人たちから仕事をもらえることもあるようなつながりは、本当に大切です。金くんと僕がつながったのも、昔、大学で友達だっただけですから(笑)。こいつと一緒にいたら得をする、というような関係ではないつながりはいいですよね。だから、NODEがつなぐコミュニティをつくっていくことに、少しずつでも貢献していけたらいいです。
Q ニュートラルにつながった先の恩恵を感じているんですね。
“無駄に思えるようなことこそが大切”、というのは座右の銘なんです。今もリテールAI研究会で主夫業の経験が役立っていますし。さらに言うと、買い物を楽しくするための活動をしているので、これが広まっていったら、世の中のいろんな人の役に立つことができるだろうと思っています。
実は新卒時に、自動車のエンジン開発を仕事にしたいと思ったのも、利用する人が多いだろうと思ったからなんです。大学では航空宇宙工学を学んでいたんですが、就職先を決める際に、「自分がつくったものを誰かが使って、いいものだと言ってくれたらうれしいだろうな」と思ったんです。それならロケットより、自動車だな、と。そういう気持ちは、今も、これからも変わらないと思っています。
Q これからの働き方は、堀込さんが経験してきたようなニュートラルなものに変わっていくと思われますか?
きっと、そうなっていくんじゃないかなと思います。変わる中でいろいろと大変なことはあるでしょうけど。一つの会社にずっと勤める時代からは変わっていくはずで、そんな時にNODEの取り組みは面白いものになると思うんです。
でも、僕自身は、より楽しいと思うことを選んできただけなんですよ。人に言われたフレーズなのですが、「行き当たりバッチリ」な人生を過ごしてきたし、これからもそうなるような選択をしていくんだろうと思います。
堀込 泰三(Taizo Horikomi)
1977年、千葉県生まれ。東京大学工学部航空宇宙工学科卒業後、ワーキングホリデーでカナダに渡り、カフェで働きながらスノーボードの日々を送る。帰国後、同修士課程を経て自動車会社に就職し、次世代エンジン開発に携わる。2007年の長男誕生時には2年間の育児休業を取得。その後復職するも、家族と過ごす「大切な時間」を増やすために退職。子育て兼業主夫に転身し、現在に至る。2018年より一般社団法人リテールAI研究会理事、2020年より株式会社NODE客員ディレクターに就任。
取材・文/新井作文店 写真/雨森希紀 ヘアメイク/江頭亮子 デザイン/吉川 渉 構成・ディレクション/丸山央里絵
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