Column - コラム

韓国視察現地レポート【リテール編】

熱を生む国の“お店”から考える、これからの買い物体験

POPUPの熱、その先にあるもの

前回のコラムでは、韓国のPOPUPがなぜあれほど人を惹きつけるのか――
その「熱量の源泉」について触れました。
ブランドが街の中に小さな発火点をつくり、SNSを通じて一気に人を巻き込んでいく。韓国のマーケティングは、まさに“熱の設計”が上手い。
では、その“熱”が行き着く先はどこにあるのでしょうか。
一瞬の話題化で終わらせず、ブランド体験をどう“定常運転”に変えていくのか。
その答えを探るべく、今回の視察ではPOPUPの先にある「お店=リテール」に注目しました。
ここに、どんな思想と仕掛けを持っているのでしょうか。

あなたにとって「買い物」とは?

「買い物に行く」と聞いて、あなたの頭に浮かぶのはどんな風景でしょう?
仕事帰りにふらっと立ち寄るドラッグストア。夜中でも開いていて安心できるコンビニ。
週末に家族で出かけるショッピングモール。日曜の特売をチェックするスーパー。そして、たまのご褒美に訪れる百貨店。
日本の街には、“生活を支える店”と“気分を上げる店”がゆるやかに共存しています。どちらも、私たちの暮らしに溶け込み、習慣の上で成立している。つまり日本の買い物体験は、「日常の延長線上にある安心感」がベースになっているのです。
では──韓国の「お店」はどうでしょう?
同じ“売る”場所でも、そこにはまったく違う温度とスピードが流れていました。

現地レポート:「また来たくなる」売場を見てきました

ロッテ百貨店:また買いたくなる、最先端の百貨店

まず訪れたのは、韓国を代表する老舗・ロッテ百貨店。
日本の百貨店と同じく高級感ある店構え。地下鉄駅と直結し、ひとつの巨大な“タウン”として機能しています。

画像:ロッテ百貨店

印象的だったのは、取扱商品の多さではなく、滞在時間が自然に伸びる“循環”が設計されていること。
フロアは地下1階〜地上14階。コスメ、ファッション、家電、インテリア、惣菜、レストラン…。
“歩く・眺める・買う・休む・食べる”がすべて一箇所で完結するつくり。
動線上で自然に商品に触れ、体験の熱が冷めないうちに購入へ誘導される。そして開放的で、不思議と長くいてもあまり疲れを感じない。

接客は最小限。声をかけられる前に「買いたくなる」ような空間がデザインされている印象でした。いわば、“接客ではなく設計で売る百貨店”。
特に見どころは9階のキネティックグラウンド。

画像:キネティックグラウンド

本店の9階に新設された“キネティックグラウンド”は、POPUPやKファッション、新進気鋭のブランドのエリアが短いサイクルで入れ替わる「変化する売り場」。期間限定の出店やPOPUPストアが一面に立ち並んでいます。
キネティックグラウンドの特徴
・2週間〜1ヶ月ごとに更新
・若いデザイナーの“実験場”
来場するたびに“新しい”。百貨店に“旬と速度”を取り込んだ空間になっています。

視察1日目の様子

視察4日目の様子

筆者も滞在中に二度訪れましたが、実際に売場が少し変わっていました。わずかな期間で店が入れ替わり、行くたび風景が変わる。「新しい体験が待っているはずだ」という期待そのものが回遊性を生む。
競争が激しいため、 「どんなに良いブランドでも、見せ方次第で埋もれる」――
そんな緊張感があります。 そのリアルな競争の中で、”滞在をコントロールするデザイン”が磨かれているのだと感じました。

ヒュンダイソウル:買うだけじゃない、“ブランドを楽しむ 空間”

次に訪れたのは、ソウルの象徴とも言えるヒュンダイソウル(The Hyundai Seoul)。
中央の吹き抜けは開放感があり、百貨店にいることを忘れかけてしまうようなスケール感でした。
ショッピングをしているはずなのに、気づけば“空間に浸りに来た”気持ちになっている。各フロアを歩くと、気づくのは「買わせる売場」よりも「魅せる売場」の多さ。多くのエリアが、商品の販売よりブランド発信や世界観の体験に重きを置いています。

販売スタッフは売り込むというより“ブランドの案内人”として存在しており、
空間全体が「体験コンテンツ」として構成されています。
“買うこと”だけではなく、“熱量を浴びること”。

ヒュンダイソウルは、ブランドのエネルギーを届ける舞台のようになっていました。

オリーブヤング:K-Beautyの実験場

そして、いま韓国コスメの消費トレンドを最前線で支える存在が、ドラッグストアのオリーブヤングです。オリーブヤングは店舗によっても色が異なりました。
ソウル市内の大きな店舗は“体験店舗”と“買い回り店舗”が明確に分かれています。

※ソンス店の店内は撮影不可。

ソンス店では、壁一面にテスターが並び、まさに「試す天国」。SNSで話題になった新商品がいち早く陳列され、 来た人は気軽に試しています。
人だかりができているところに、とりあえず行ってみる!
商品を目の前にするとつい試して買いたくなってしまいます。

一方、明洞にある店舗は買い回りに特化。
通路は狭く、均一に陳列、滞在時間を短縮しながら購買点数を増やす導線設計です。
どこに何があるかわかりやすい。さらに、売れ筋商品は前面に。
目的買いでの買い回りやすさがありながら、今のホットなトレンドも教えてくれます。

トレンドを固定化せず、つねに“流れるもの”として見せている。
このスピード感こそが韓国流のマーケティングの肝だと感じました。

韓国の“売場設計”が持つ思想

韓国の店舗を歩いて感じたのは、
「体験」と「拡散~次の体験」が一体化しているということ。
実際に見てきた店舗の特徴
• ロッテ百貨店:滞在をコントロールする動線設計
• ヒュンダイソウル:世界観と熱量に浸る空間
• オリーブヤング:PDCAが高速回転する実験場

すべてに共通していたのは、 「買い物が終わっても、体験は終わらない」という設計思想。
ファンが継続的に購入したくなるように、次回来店を意識した体験設計がされています。
百貨店では、POPUPや商品ラインナップがスピーディーに入れ替わり、「次に行っても新しい体験ができる」わくわく感が生まれる。オリーブヤングの各店舗では、店舗ごとでエッジが効いて、複数の店舗に行くこと自体を楽しめる。
その循環の中心に、”スピード”と“楽しさ”がある。
これが韓国流のリテールマーケティングだと感じました。

対して、日本の“売場”が持つ力とは?

では日本の売場はどうでしょう。

日本の買い物体験の本質は、「ヒトが介在する情緒的価値」にあるのではないでしょうか。
店員の方の一言や表情、外商の心配り、地域ごとの空気感。街や人の特性に合わせた“おもてなしの思想”が根づいており、そこに共感した顧客がファンとなってお店を育てていく。ファンコミュニティとともに文化を形成していく。それが日本の特徴ではないかと感じました。

韓国では、人に拡散された話題や体験への共感(行ってみたいと思う感情)がまた新たな人を惹きつける。日本では、ブランド側の想いや人で積み上げられた信頼への共感が人を惹きつける。

方向性は違えど、どちらも顧客の心を動かすマーケティングであると感じます。

さいごに:熱と情緒の交わる地点へ

韓国の売場は、“熱を生む構造”。
日本の売場は、“信頼を積む構造”。

この2つが交わるところに、次のリテールの可能性があるのではないでしょうか。
POPUPで火をつけ、リテールで文化にする。熱と信頼、その両輪でブランドの熱を維持する。
それがこれからのマーケティングに求められる設計思想かもしれません。
韓国が示す“熱量の作り方”は、日本のブランドにも多くのヒントを与えてくれます。
たとえば、SNSを軸にしたテストマーケティング。都市中心部を使った高速PDCA。
一見“軽やか”に見える戦略の裏には、「熱をつくり、冷めないうちに次へつなぐ」という極めて合理的な設計があります。
これから日本のブランドが国内やグローバルに挑戦するうえでも、こうした“スピードと熱のマーケティング”は重要になるでしょう。情緒で深くつながる日本、トレンドで一気に巻き込む韓国。
この両軸を行き来できるブランドこそ、次の時代をリードしていくのではないでしょうか。

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