
皆さん韓国といえば何を思い浮かべるでしょうか?
K-POPや韓国ドラマ、食品やコスメ、人によって様々かと思います。
ただ共通して言えるのは、韓国発の商品やコンテンツから多くのトレンドが生まれ、日本だけでなく世界にまでその熱狂を広げているということではないでしょうか。
小さな熱狂を生み出し、その熱を波及させて大きくして定着させていく。
その一連には日本のマーケティングにもヒントが多くあると考え、熱狂の仕掛けを肌で感じて持ち帰ってくるために韓国に行ってきました!
前半ではPOPUPストアの聖地と言われる「聖水洞」について、現地を歩いて肌で感じたレポートをお届けします。
なぜ、まずフォーカスしたのがPOPUPなのか?
日本でPOPUPと言えば、百貨店の催事スペースや、セレクトショップ、そしてイベントスペース等で多く行われてきた印象があるのではないでしょうか?
国内のPOPUPは今あるものの盛り上がりをもっと強化するもの、もう一度話題化を呼ぶためのものに位置づけられ、活用されてきたように感じます。
その背景に立ったとき、日本でも今、改めてPOPUPの熱はかつてに増して高まってきており、例えば渋谷だけでも、109やGoogle本社下、スクランブルスクエア前、三千里薬局の跡地等にPOPUP用の施設が増えているほか、2025年に強化したいマーケティング施策としても、22.0%が「ポップアップストア」と回答しています。※1
しかし、韓国のPOPUPは切り口が少し違ったように感じました。
韓国のPOPUPは、新興ブランドや、今まさに盛り上がり始めているブランドによる期間限定のテスト店舗のような位置づけでした。
新しい出会いを演出し、話題を作って、人気を呼んで、定着させていく。
一言でPOPUPと言っても、ブランドにとっての活用の仕方は多岐にわたることが読み解けます。
そんな韓国のPOPUP市場は、今回訪問した聖水洞エリアを中心に熱狂が増しています。
2025年上半期、韓国のPOPUP開催数は前年同期の約2倍※2に。さらに、平均開催期間は約3割減※2となり、ソウル市内全域の開催集は減少しているものの、聖水洞エリアでのシェアは上昇。
2024年時点で既に韓国全体の35.5%が聖水洞エリアに集中しているとの調査結果※2もあります。
まさに熱狂の起点となるPOPUP施策、その聖地と呼ばれる地で熱狂の仕組みを感じ取るため、我々は聖水洞に向かったのでした。
ではなぜ、聖水洞のポップアップには、あれほどの人だかりができるのでしょうか?
現地を歩き回って見えてきたのは、徹底的な「今、そこに行かなきゃいけない理由づくり」でした。
理由づくりその1:「拡散」のため、「行くこと」が目的になる異世界空間
「期間限定のテスト店舗」の位置づけという印象に反して驚かされるのが、その空間設計です。
かつての工場地帯という無機質な街並みの中に、突如として現れる実験室のようなコスメショップや、リゾート地のようなカフェ空間。一歩足を踏み入れれば、そこは日常を忘れる完全な「異世界」です 。
SNSでの拡散や自己アイデンティティの構築が盛んになる昨今、聖水洞に人が集まる目的は「商品を買いに行くこと」ではなく「その世界にいる自分を共有すること」になるのです。
結果、熱狂が人を呼び、そのまま拡散に繋がる。
新興ブランドや話題化を狙うブランドにとって商品を売ること以上に重要なのが「拡散」を呼び起こす仕掛けなのでした。

理由づくりその2:「体験を売る」ことで、「試したい」が「買いたい」に変わる
圧倒的な異世界空間は、拡散のために目を惹くだけではありません。
中に入ってからの仕掛けも秀逸でした。
多くのポップアップでは、単に商品を並べるのではなく、徹底して「体験」を提供しています。
例えばスキンケアブランド「Torriden」では、店内のいたるところにフォトスポットやゲームを配置し、回遊中の体験を促します。


さらに、購入後はただノベルティを渡すだけでなく、巨大なガチャガチャを設置し、何が当たるかわからないドキドキ感自体をアトラクションにしていました 。
(私のノベルティは2等でした。1等が欲しかった、、、)
また、「アモーレパシフィック」が運営する「Amore 聖水」では、まず、Amore聖水は入った瞬間に無機質感と植物が織りなす異世界空間へと誘われます。
そして、入店してすぐ設置された洗面台では、ブランドのクレンジングやハンドソープが設置され、その後のタッチアップ体験へとスムーズに誘導します。

また、肌診断を通じて自身の肌に最適な美容液を作る体験も提供しています。
購入者は自身の肌質や肌トラブルの状況を正しく認識出来るだけでなく、数種類のテクスチャーから自身が最も好みなものを選んだうえで、自身の肌に合っている上に、使い心地も最高に自分好みな美容液を手にすることができます。
「モノ」を売る前に、楽しさや納得感という「体験」を売る。
その結果、「試してみたい」という気持ちがいつの間にか「買ってみたい」という行動へとスムーズにつながっていくのです。
「今、そこに行かなきゃいけない」という強い動機を作り、訪れた人を異世界と体験で魅了する。これが、聖水洞で目撃した熱狂のメカニズムでした。
こうして現地を見て回って感じたのは、韓国のマーケティングが、徹底して「買いたくなるもの」「試したくなるもの」を作る「話題ドリブンマーケティング」だったということです。
ブランドが街の中に小さな爆心地をつくり、SNSを通じて一気に人を巻き込んでいく。 「良いものだから売れる」だけでなく、「話題になるから人が集まる」状況を意図的に作り出す。
この熱の設計の上手さこそが、韓国流マーケティングの真髄なのかもしれません。
さらに、ポップアップでの成功を通じて「熱狂」を勝ち取り、確かなファンを獲得したブランドたちが、次々と「旗艦店(フラッグシップストア)」をオープンさせているのです。
rom&nd、TIRTIR、New Balance…… 。 彼らは短期決戦で得た熱量を、恒久的な店舗という「家(Home)」に注ぎ込み、「定常運転」のフェーズへと移行しています 。 瞬間の熱狂を、どう永続的なブランド資産へ変えていくのか。
次回は、この熱を持続させる「リテール」の進化に注目します。
ロッテ百貨店やオリーブヤングといった「お店」は、どのようにして顧客を離さない仕組みを作っているのか? 日本のリテールにも通じるヒントを探ります。
次回もお楽しみに!
※1: 株式会社カウンターワークス「カウンターワークスがマーケティング担当者410人を対象にした「ポップアップストアに関する実態調査2024」を発表」, https://counterworks.co.jp/news/4972/, (参照 2025-12-05)
※2: VENTURE SQUARE「スウィートススポット、「2025上半期ポップアップストアトレンドレポート」公開」, https://www.venturesquare.net/992325, (参照 2025-12-05)

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