Column - コラム

CX起点のデータPDCA実践論
-意思決定のスピードが上がるマネジメントとは

昨今、商品やサービス、そしてデジタルおよびリアルでのユーザとの接点全体を通して得られる顧客体験(CX)の重要度が高まっています。それに並行して、様々なアプローチを用いてユーザデータを獲得する仕組みを整備している企業も増えているのではないでしょうか。

そのような中、LTV(ユーザ生涯価値)をビジネス指標として、ユーザの体験をアップデートしながら長くユーザとつながり、評価され続ける商品・サービス・企業となれるかを日々取り組んでいることかと思います。しかし、現状のデータを元にした集計・分析から新たな打ち手を検討し、ユーザ起点であった方が良いことは分かっているものの、それが本当にビジネス観点からも有効であるのか、また、今その打ち手を打つべきなのかは議論をしてみるものの、結局、誰かの直感や経験に基づいて意思決定されていることはないでしょうか?

これは、
1.ビジネス指標(KGI/KPI)がユーザ起点での課題設定が含まれていないこと
2.KPIの数値改善のKGIへのインパクトが量的に測れないこと
が要因の一つと考えます。

KPIを設計する際に、従来のファネル理論に基づいて「EC申し込み離脱率」や「チャネル別売上」といった分かりやすい指標を設定すると、日々の改善活動が目の前の課題解決に集中しやすくなります。その結果、具体的で手を付けやすい改善が進む一方で、それが事業やビジネス成果にどのように繋がっているのかが曖昧になりがちです。

例えば、EC離脱率の改善がCVR向上を経て売上や利益の向上に繋がると期待されるものの、実際にそのKPI改善が事業やビジネス成果向上に貢献したことを証明するのは難しくなります。これは、他によりインパクトのある指標が存在する可能性も含め、KPIとKGIの関連性が不明確であるためです。

本コラムでは、そのような課題感をお持ちの皆様へ、まずはリアル / デジタルのコミュニケーションの領域を題材にして、ユーザデータを活用した永続的なLTV成長を生み出すCXドリブンPDCAの考え方を、今後の皆様の活動の一助となればと思い、実際のご支援の経験を元にご紹介します。

施策の真の目的を見極める - なぜその施策を行うのか?

分かりやすい例として、ハードもソフトも手がけるゲーム会社で期間限定の商品割引キャンペーンの担当をしており、改善をしようと思ったとします。あなたがどんな役割・役職だったとしても、”なぜ、その施策をやっているのか?”と問われたら、”商品の売上を伸ばすためです”と答えますよね。多くの場合、”商品の売上を伸ばすため”に繋がると思います。
人事部門であれば”採用数を伸ばすため”、CX系部門であれば”NPSを伸ばすため”などもあります。これがKGI(ビジネス上のゴール)となります。もちろんその先の企業ミッションやビジョンの実現など定性的な状態目標もあります、データで捉えられる定量的範囲の話と捉えていただければと思います。

KGI達成への道筋 - 具体的なアプローチとは?

そんなこと知っているよ!という声が聞こえる気がしてなりません。
ここからがユーザ起点でのKPI設計のお話です。

では、KGIを達成する(売上を伸ばす)ためにはどのようにすればいいでしょうか?
ハードもソフトも手がけるゲーム会社の場合、まずはハードを購入いただき、その後、継続的にソフトを購入いただくビジネスモデルですよね。いきなり売上を向上させるのは、少し考えにくいため、売上を上げてくれているユーザは”どんな行動をしているか”をデータを元にまず見てみましょう。

まず、売上貢献の大きいユーザはどのような行動をしているのかを想像して洗い出してみましょう。
その上で、洗い出した行動をとった人・とってない人で本当に売上貢献額に差があるのかを検証してみると、下記のような行動をとっているユーザが購入3か月目移行、定期的にソフト購入を繰り返してくれており、売上貢献してくれていると分かったとします。

1.ハードをソフト1本と一緒に購入
2.購入後1か月以内に2本目のソフトを購入
3.2か月以内のオンライン対戦用ライセンス契約
4.オンライン対戦用ライセンス契約を2か月以上継続

ユーザは購入した後、面白さを実感し、もっと別の面白さを求めて別ソフトやオンライン対戦へと広がっていき、そこでも面白さを実感いただけることによって継続的にソフトを購入いただける関係になっていったとユーザ体験側で考えても納得できますね。
そうすると、”ハード購入”、”2本目ソフト購入”、”オンライン対戦用ライセンスの契約”、”オンライン対戦用ライセンスの2か月契約”の行動をモニタリングし、その数が向上すれば売上も上がっていきそうですよね。

そしてそれを”ハード購入者数”、”2本目ソフト購入率”、”オンライン対戦用ライセンスの契約率”、"オンライン対戦用ライセンス2か月継続率”などと、データで定量的に測れるものがKPI (KGI達成のキーとなるユーザの重要行動)となります。

ここで注意なのは、あまりKPI設定を厳格にやりすぎないこと。データを元にしたPDCAを前提としているので、KPIも”間違っていればアップデートしていけばいい”と考えます。常に世の中は変化しており、その中で日々暮らしているユーザも変化しているため、ずっと同じKPIではユーザの変化を捉えられなくなってしまいます。

PDCAを深化させる - KGIとKPIの量的関係

KPIを設定すると、よくあるのが、Aさんはハード購入者数、Bさんは2本目ソフト購入率を、と分担され、それぞれで施策を検討することがあります。そこであなたがAさん、Bさんの上司だったとして、それぞれの人から施策をやりたいので予算承認して欲しいと言われました。しかし、予算やリソースは当たり前ながら決まっています。今回はどちらかの施策しかできないとしましょう。Aさんの施策かBさんの施策か判断が必要です。

さて、どちらの施策を実施すると判断するのがよいでしょうか?そのようなものは、内容や金額、タイミングによって違いますよね。ただ、その判断軸を言語化するのは難しかったりしませんか?

ここで判断軸の一つがKGIとKPIの量的つながりです。KPIがX%改善したらKGIはX%上昇するという売上と各KPIの関係式を作ります。

難しく見えますが、変数となっているのはユーザの行動だけで、ハード単価、ソフト単価、3か月目以降ソフト購入額などは固定の数値のみのため、見た目ほどは難しくないのです。この関係式ができると、例えばハード購入者数のKPIが1名増えたときに、他のKPIを固定して、いくら売上が上がるのかが算出可能になります。

施策ごとに、どのKPIをどれくらい向上させられるのか、そしてその金額はいくらで、どの程度のリソースがかかるのかが分かれば判断しやすくなるような気がしませんか?もちろん、言わずもがなですが、分担をしておらず一人で全てやっているなんて状況においても、同じようにどちらを今やるべきか、それは何故かを判断しやすくなります。施策の振返り時にはもう少し細かく見ることで売上に対するインパクトという観点で評価することが可能になります。

例えば、5,000人に対する2本目ソフト購入率を向上させる施策の振返りの際には、
施策をやった人の2本目ソフト購入率と施策をやっていない人の2本目ソフト購入率(施策がなくとも2本目を購入した人)を見るとその施策がどの程度のKGIへのインパクトがあったか算出できます。
元々の2本目ソフト購入率は3%だったとします。
今回の5,000人のうち、1,000人が施策を実施し、その人たちの2本目ソフト購入率は5%でした。

この時、施策を実施した2本目ソフト購入率は、1,000人×5%+4,000人×3% ÷ 5,000人で3.4%となります。

よって、この施策によって向上した2本目ソフト購入率は0.4%であり、それがどの程度売上向上をもたらすかは上述の式に当てはめれば算出可能となります。

持続的な成長を目指して

ここまで量的なつながりを持てていれば、誰が見ても、ユーザデータを元にしてLTV向上に向けたPDCAサイクルをスピーディに・より再現性の高い形で回せる気がしませんか。
ただし、本コラムではリアル / デジタルのコミュニケーション領域を題材としてお話をしてきましたが、記載のKPIの達成だけを盲目的に目指していくだけでは、ブランドイメージを棄損してしまったり、商品のデザインに対する評価が売上に寄与していたりと、見落としてしまう部分があります。商品・サービスを含めたPDCAの考え方については別途お伝えする予定ですので、その連載までお待ちください!

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