Column - コラム

AI時代に効果的なUX設計の3ステップ
-AI活用でユーザニーズを外さない秘訣とは

「AIでお客様ニーズを緻密に捉えて、最適な商品・サービスを出し分ければ、LTVアップができるのでは?」との期待をよくお伺いします。

一方で、利用開始をして間もないユーザのデータは企業側には溜まっておらず、AIが学習しようにもできない中で、最適な商品・サービスを出しわけられないのが実情です。 その状況で、いったいどうすればAIを活用してLTVを高めるための出し分けができるようになるのか?

本コラムでは、NODEが研究した国内外の事例やプロジェクトでの経験を踏まえ、AIを活用したLTV向上のためのデジタルサービスUX設計の考え方をご紹介します。

ユーザは自分のニーズに”無自覚”

いま、私達の周りには、常に多様な商品・サービス、情報が存在しています。その全てを取捨選択することが難しいなか、ユーザはすでに自分の関心がある商品・サービスにしか時間を割かない状況が以前よりも強くなっている状況です。

一方で、企業側としては、何とかニーズ喚起しようと、商品ラインナップを増やしたり、キャンペーンを提供したりと努力を重ねますが、ユーザ自身が、自分の関心外のことに目を向けないなかで、需要喚起していくには、ユーザ自身の関心を察知し、それに対する最適な自社商品・サービスを提案していく難しさが依然として残っています。

その状況に対し、これまでは1to1対応が現実的には難しかったため、一定のタイプ別(セグメント別)のニーズを想定し掘り起こしを行ってきました。ただ、同じセグメントのユーザでも、実際のニーズ・その期待の大きさは異なるのに加え、ユーザ側の状況が変わればニーズも変わるなかで、都度その動きに対処することが困難でした。

そこに登場したのが、AI(データでの学習)。ユーザの行動から関心・期待を察知できるAIを活用し、デジタルサービスのUXを最適化する動きが活発になっています。

”私のことわかってる!”のUXになるための3ステップ

 国内外の金融機関を中心にAI活用に取り組んでいる企業を調べてみましたが、AIを活用するにしても、最初から顧客データが揃っているわけではないため、各社共に最初から完璧なパーソナライズでの需要喚起を前提にはしていないようです。

そうすると、デジタルサービスUXも 「AI活用とはいうものの、初期はユーザのデータが少なく、いきなりピッタリの対応は難しい」ことを前提に、利用過程でデータの蓄積とともにユーザにフィットするUXをあらかじめ用意する必要があります。

AI活用が先行している国内外の金融サービスはこの状況に対し、どの様なデジタルサービスUXを構えているのでしょうか?NODEにて、国内外でAIを活用しているサービスを調べてみたところ、UX自体を下記3ステップで発展させているようでした。

STEP1 Selective UX:まずはユーザの関心・状況をあえて広く捉える

サービス利用開始直後はデータが蓄積されていないこともあり、ユーザの状況を企業側が捕捉するのは困難です。一方、ユーザ自身が自分のニーズ、サービスへの期待を明確に理解していないこともあり、放って置くとその後の利用定着が運任せな状況に直面します。
このサービス利用開始直後のユーザに対し重要なのは、①ユーザの状況、ニーズや期待を「外さない」前提で、サービスの利用を促すこと、②その過程で大きなニーズの方向感を把握することです。
このユーザの初期利用を外すことなく上手く促しているのはブルーモ証券(日本)です。弊社にて実際に利用してみたところ、ブルーモ証券は利用開始直後のユーザが自分では最適な投資先を選択しづらいことを前提に、自分と近しい属性・状況の人、関心がある対象をあらかじめ選択肢として提示しし、自分の関心に近いものを選んでいただくなかで、ユーザの納得感も醸成しながら利用を促しています。

初期にデータが溜まっていないなかで、AIで最適な応対を!と大々的に打ち出すと、レコメンド内容が合わないときに精度が疑われ離反される恐れもでてきます。そんな初期のリスクに対し、大きく外さないけれども、ユーザ自身が関心があるサービスを選択できるUXを構えることで、オンボーディングを上手く促しています。

STEP2 Adaptive UX:利用状況からユーザの関心を補足し、次のアクションを自然にガイドする

サービス利用に慣れてきたユーザは、自分なりに使ってはいますが、もっと便利にする方法には気付きづらく、そして金融サービスの場合は特に、自分で学ぶのも難しいため、なかなか利用サービスが広がりづらくなります。
この状況に対し、アメリカの証券投資サービスStreetbeatは2023年ChatGPT4を搭載したリアルタイムのニュース解析に基づき、ポートフォリオをアクティブに管理する最先端の投資サービスのSmartPilotを活用し、蓄積したデータをもとに、少し先回りしてユーザに気づきを与えるUXを提供しています。

このUXの素晴らしい点は、一般的に行われがちなAIアシスタント利用を促すのではなく、ユーザの情報収集、判断の体験上で、自然と気の利いた提案を先行して行い、負荷なく次の行動選択へといざなっているところです。
ユーザ自身も、自分の保有銘柄の状況を見る中で、状況をよりよくする提案を受けることになるため、負荷なく提案を受け止めることができ、かつ、その様な状況にあった提案をしてくれるAIへの信頼も高まります。そして、この様なAdaptive UXでAIへの信頼が高まった後は、AIアシスタントを相談相手として大々的に露出させ、さらにセルフでの取引を支援しています。

STEP3 Hyper Interactive UX:コンシェルジュのようなやりとりで、ユーザの判断・決定を円滑化

STEP2のUXでも一定利活用は進みますが、基本的に先回りして最適な提案を行うことが主であるため、あくまで最終判断はユーザに委ねられます。一方で、特に金融サービスは大事なお金のことでもあり、ユーザが判断に迷う場面もたくさんあります。

アメリカのCLEOはデジタル支出・貯金管理を支援するサービスですが、AIを活用したチャットボットが、友人かのようにユーザの資産管理を支援してくれます。例えば「この本、買ってもいい?」と質問すると、「今月は〇〇円貯金できているので、OK」といったように、あたかも人とのやり取りをしているかのようなUXで、ユーザの資産管理を支援してくれます。

一般的なAIサービスは、ロボットのように機械的にアドバイスをすることが多いですが、CLEOは人とのインタラクションを通じて、ユーザの資産管理の判断、決定を支援するので、ユーザーからすると、難しい・面白くないお金のことも、楽しく判断・決定することができるのです。このCLEOはZ世代を中心に利用者数が伸びています。各商品・サービスの良さに加え、CLEOというサービスブランドそのものに愛着を持っているとの若年の声も多いそうです。

さらに重要なのは、”良質なセレンディピティ”

AIで体験が最適化されると、ユーザはその便利さから使い続けますが、利用スタイルが固定化し、言われたら興味がある別のサービスへの関心を持ちづらくなります。これを弊社では習慣化の罠と呼んでいます。

一方で、ビジネスサイドから見ると、複数サービス利用拡大の機会が減ってしまうため、この状態は望ましくない。そこでこの状況を打開するべく、アメリカの金融サービスでは、これまで利用していたサービスの種類とは異なる商品をあえて提示し、これまでとは違う動きを促す工夫を行っています。例えば先述のStreetBeatは、これまでの利用カテゴリーに合致する提案を行うも、それに関心を示さなかった場合、あえて別カテゴリーのサービスを提案し、ユーザに新たな気づきを与え続ける工夫を行っています。
もちろん、裏側ではユーザの過去の行動から趣向・期待を学習し、確率的に高いものを提案しているのですが、ユーザから見ると、内容に興味があれば良質なセレンディピティになり、よい提案をしてくれたとサービスへの信頼に繋がります。

このようにAIを活用し、各ユーザに合った利用定着と利用拡大の体験を交互に織り交ぜながら、サービス利用を促進しグロースさせている模様です。



今回はAI活用を前提にしたデジタルサービスUXの事例をご紹介しました。重要なのは、冒頭に申し上げた通り、「いきなり100点は目指さず、段階的に精度を高める」ことを前提に、UXを進化させることです。
そして、レコメンド内容もいきなり精度を高めることは難しく、AI活用開始直後は多少なりとも顧客が離脱することも念頭に、実践からの学びで精度を高めていく営みが必要になります。実際に弊社がご支援している大手企業様も、アプリのトップページや、顧客の商品・サービス選択を促す画面にレコメンドのPoCを行うエリアを構え、AIの精度を高める営みとセットでUXを最適化しているのが実情です。

このようなAIを活用したUXの最適化を推進するには、実はインターフェース側をマネジメントする裏側の仕組みが重要になります。実はご支援の中で感じたのは、このマネジメントの仕組み構築が難しいということです。そこで、次回コラムでは、この組織的な業務推進をどのように進めているのかご紹介いたします 。

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